書店のポップに惹かれ購入した辻村深月「傲慢と善良」を読了。

辻村氏はミステリーからコメディーまで幅広いジャンルを執筆する小説家で、
2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞してデビュー
2011年「ツナグ」で吉川英治文学新人賞
2012年「鍵のない夢を見る」で直木賞
2018年「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞
映画化・マンガ化作品も多く知名度が高い作家でありますが、
わたしは初めて彼女の作品を手に取りました。

冒頭、主人公の女性・坂庭真実は何者かから逃れるために
街灯に乏しい住宅街の闇夜を走っている。
通りすがりのタクシーを何とか捕まえ乗り込む。
そして、付き合っている男性・西澤架のスマホへ震える手で電話をかける。
こうして物語は幕を開ける。

真実は北関東・群馬出身で親元で暮らしていたが
とある事情で上京し派遣の事務として働いていた。
そう、働いていた・・・

架との婚約を機に辞めたのだ。
そして退職したその翌日に突然姿を消す。
あまりに突然のことで架は何が起きたのか理解できず動揺し困惑する。
ここから不可解な出来事の理由が一つまた一つと紐解かれていく。

恋愛、結婚、地方の閉塞感、人生の目的、表層的な幸せと現実の葛藤、
虚栄心、羞恥心、妬み嫉みを次々と露わにし人間の業の深さを描き出す。

作品は2部構成で第1部は真実の背景が丁寧に描かれておりますが、
実のところ少々もたついている感がありました。
しかしながら、物語の答え合わせとも言える第2部は胸に迫るものがあり、
それは第1部の各種エピソードと細かな心理描写があってこそで、
そのメソッドが生むドラマにすっかり魅了されてしまいました。

文庫本の帯には「人生で一番刺さった小説」とありますが、
それは万人に向けての普遍的なメッセージが内包されているからこそであり、
「人間の業の肯定」とも解釈できるものでした。