「罪の声」をきっかけに「騙し絵の牙」「盤上のアルファ」「雪の香り」と読み進め、
塩田武士作品5作目として「女神のタクト」を読了。

塩田氏は2016年度週間文春ミステリーベスト10国内部門第1位の
「罪の声」が出世作となりわたしも例に漏れず当該作品がきっかけに。

「罪の声」はグリコ森永事件をモチーフに元新聞記者らしい着想と緻密さ
そして「分かるようで分からない」寸止め感のある見事な構造でグッと心を掴まれました。

ただ、その後手にした「騙し絵の牙」以降の作品にある
関西出身者らしいユーモア満載の作品は「罪の声」の作風とは趣が随分と異なる印象です。

今回手にした「女神のタクト」はまさにそれを地で行くもので、
主人公である矢吹明菜を取り巻く面々とのやりとりは、
ボケとツッコミという基本フォーマットに則り描かれテンポが良い。

一方、才覚溢れる指揮者・一宮拓斗と矢吹明菜を中心に織りなされる物語は、
「ラフマニノフにはじまりラフマニノフに終わる」とも言え芸術的な感性が光ります。

「正確無比なロマンチスト」の手による読後感の良い作品でした。

女神のタクト (2011年10月講談社 / 2014年11月 講談社文庫)